まず、「サプライチェーン」という言葉の意味をおさらいしておきましょう。
製品やサービスが、企画から開発・生産・流通・販売に至るまでには、さまざまな会社や人が関わっています。この“つながりの流れ”全体を指すのが「サプライチェーン」です。
つまり、
自社だけでなく、以下のような関係先も含まれます:
これらの関係先で発生する労働問題や人権侵害も、企業の人権責任の一部として見なされる時代になっているのです。
たとえば、あるアパレル企業の事例です。
この企業が委託した縫製工場が、さらに別の下請け先に再委託をしていました。
その再委託先では、外国人技能実習生が長時間働かされ、適正な賃金も支払われていないという実態が発覚。しかもその会社は突然倒産。
元請け企業は「直接契約していない」として当初は静観していたものの、報道やNPOの指摘を受け、最終的には救済対応を行いました。
このケースのように、「自社が直接関わっていない」と思われがちな部分で起きた問題が、企業の信頼や評判を大きく左右することもあるのです。
背景には、国際的な人権重視の潮流があります。具体的には以下のような動きです:
たとえば、欧州に取引先を持つ日本企業であっても、現地の法制度に対応する形で、人権デューデリジェンス(人権リスクの調査・対応)を求められることがあります。
つまり、「日本の法律にはないから関係ない」とはいえない時代になっているのです。
人権対応は、単に「美しい理念」や「社内規程」を掲げることではなく、実際にどのようなリスクがあるかを見極める視点が重要です。
ポイントは次のようなものです:
チェックポイント | 具体例 |
---|---|
契約先に無理な納期や価格を強いていないか | 安すぎる発注が、下請けの過酷な労働に繋がることも |
下請け企業が再委託していないか | 中間業者が増えるほど、現場の実態が見えにくくなりリスクが拡大する |
現場の実態が見えているか | 実際の労働環境や待遇を確認する仕組みがあるか実地訪問やアンケートなど、現状を“見える化”する仕組みがあるかどうか |
こうしたチェックを通じてサプライチェーンの可視化を進めることが、「人権デューデリジェンス」の第一歩です。
もちろん、すべての仕入れ先や委託先を完璧に把握するのは簡単ではありません。
でも、「できることから始める」「継続的に見直す」という姿勢そのものが、企業の信頼性を高める力につながっていきます。
たとえば:
こうした取り組みは、外部からの監査や問い合わせへの備えにもなり、社内での意識改革にもつながります。
サプライチェーンの先にいる人々の姿は、普段は意識しにくいかもしれません。
けれども今や、製品やサービスの“向こう側”にいる人たちの人権も、企業が守るべき責任領域と見なされています。
社内だけでなく、関係先やパートナーとも対話しながら、“人権リスクを見つけ、未然に防ぐ力”を少しずつ育てていく。
それが、これからの企業に求められる重要な姿勢です。
次回は、企業が最初の一歩として取り組みやすい「人権方針(ヒューマンライツ・ポリシー)」の策定についてご紹介します。