株式会社ユー・エス・エス/上田写真製版所 ブログ

文字校正

◆校正雑感~漢字とひらがなで言葉のニュアンスが変わる日本語の奥深さ

ユー・エス・エスの文字校正




校正でさまざまな文章を読んできましたが、誤字や誤文などは指摘することで少しは役に立てたと思うのですが、間違いではないけれども「これでいいのだろうか?」と考えさせられることも少なくありません。
一例を挙げると、漢字とひらがなの使い分けで微妙にニュアンスが変わることがあります。読みやすい文章は「漢字3割:ひらがな7割」が望ましいとされていますが、これもケースバイケースで厳格なルールがあるわけではありません。

先日、短い文章の校正作業であったことをご紹介します。

キッチンで手作りしたからだに優しい焼き菓子

あるリーフレットに載っていた、クッキー缶の紹介文の一部分です。
誤字もなく漢字とひらがなのバランスもちょうどよい文章と思いましたが、少し引っかかるものを感じて、私はこのように直してはどうかと指摘しました。

キッチンで手作りしたやさしい焼き菓子

まず「体」ですが、「キッチンで手作りしたからだ」と「からだ」のままでは、ひらがなが並び読みづらいのではないか?と思い、「体」としてみました。しかし、クライアント様は「体」と漢字にすることに違和感を覚えられたようです。

たしかに、体、身体、からだ、と同じ「からだ」でも表記の仕方によって微妙にニュアンスが変わりますね。

その違いはどこからくるのでしょう?

「体」と「身体」はどちらも「からだ」と読んでいますが、常用漢字としての「身体」は「からだ」ではなく「しんたい」と読みます。ただし、それはあくまでも常用漢字の使用に限定される場合(公用文書など)であり、通常は「身体(からだ)」と読んでも間違いではありません。

辞典で調べますと、「体」は「人間・動物の頭から足の先までの全体。特に胴の部分を指してもいう」(明鏡国語辞典)という意味、「身体」の「身」は体だけではなく、心や精神、身分や立場といった意味にも使われるため、「身体」は人間のみに使う言葉といえます。

よって、「体」は肉体そのものを表し、「身体」は肉体と精神をまとめて表していることから、ふたつのニュアンスの違いが分かると思います。

では、「からだ」とひらがなで表記するときはどんな場合でしょうか。

やはり、ひらがなの持つ「読みやすく、親しみやすい」イメージを出したいときに使われることが多いと思います。これに対して漢字は堅くて真面目な印象を受けますね。

また、漢字は表意文字といって、文字そのものに示している意味(概念)があります。「体」や「身体」は、先述のようにある程度意味が限定されるため、そのどちらかでもなく、「どちらでもある」広い意味になるようなニュアンスの場合に、ひらがなの「からだ」が使われるのではないでしょうか。

私は、親しみややわらかなイメージを持つ「からだ」のほうがこの文章に合っていると思いながらも、ひらがなが並ぶことによる読みにくさを避けることを優先して「体」としましたが、漢字にしたことで言葉に含まれるメッセージが微妙に変わり違和感を持たれたのだと思います。

「優しい」「やさしい」ニュアンスの違い

次に「やさしい」ですが、
①他者に対しておもいやりがあるさま。②当たりがやわらかい、おだやかなさま。③上品で優美なさま。④人工物が天然自然の産物によくなじむさま。(三省堂国語辞典、明鏡国語辞典)

といった意味があります。(今回「易しい」(すぐにわかる。たやすい)は説明から外しています)

「からだに優しい」は④の意味といえます。
いっぽう、「体」のように「優」という漢字にも「①他人に対する思いやりの気持ち②上品で美しい③素直で穏やか、ゆるやか④すぐれている」といった意味があります。

④の意味に比べて、「優しい」はどちらかといえば「人に対する気持ち」が強いため、漢字を使わず「環境にやさしい」「肌にやさしい」のように「やさしい」が使われることが多いのではないか?という理由で「やさしい」としました。

漢字とひらがなの使い分けでもニュアンスが変わってしまう日本語の難しさ

このように、同じ言葉でも漢字とひらがなの持つイメージや、漢字のもともとの意味によって、言葉のニュアンスが微妙に変わってくることがわかります。

キッチンで手作りしたからだにやさしい焼き菓子

キッチンで手作りしたからだに優しい焼き菓子

キッチンで手作りした体に優しい焼き菓子

どれも誤りではありませんが、その文章内容から適切な判断が求められるのも、校正の難しさではないかと思います。

以上、自身の校正経験を書かせていただきましたが、試行錯誤をしながら、より精度の高い校正を目指して精進していきたいと思います。

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