
今回は、職場体験にいらした方の原稿をもとに、
秋の香りをテーマにした小さなコラムをお届けします。
朝、玄関を出た瞬間に「あっ」と思う。
空気の中に、ほんのり甘い香りがまじっている。
見上げると、オレンジ色の小さな花が風に揺れていた。
きんもくせいの香りって、不思議ですよね。
通りすがりに一瞬香っただけで、
あっという間に“秋だなあ”と感じさせてくれる。
今年もまた、この香りの季節がやってきました。
きんもくせいは、花の見ごろがとても短い植物。
咲いたと思ったら数日で散ってしまうから、
見逃してしまう年もある。
でも、香りだけはちゃんと届くんです。
風にのって、遠くからでも。
目に見えないのに、ちゃんと気づかせてくれる。
だから余計に、心に残るのかもしれません。
子どものころは、学校の帰り道でよくこの香りを感じていました。
制服のポケットに落ちた花びらを入れて帰って、
家についてから、そっと取り出してみる。
それだけのことなのに、なぜか少しうれしかった。
大人になっても、香りの記憶ってちゃんと残っていて、
忙しい日々の中でふと香ると、
どこか懐かしくて、時間がゆっくり流れ始める気がします。
秋の空気には、静かな力があります。
暑さと涼しさのあいだを行き来する風が、
気持ちまでやわらかくしてくれる。
慌ただしい日々の中でも、
香りに気づく余裕を持てたらいいですね。
季節を感じるって、少しの“余白”の中にあるのかもしれません。
通りを歩くたびに、どこからともなく香ってくるきんもくせい。
立ち止まって見上げると、
小さな花がたくさん集まって、
金色の小さな雲みたいに枝を飾っています。
たった数日間のこの香りを、
今年もまた感じられたことが、なんだかうれしい。
花は、見られるために咲くのではなく、
季節を伝えるために咲くのかもしれません。
風に乗って、そっと知らせてくれるように。
この秋も、そんな“さりげない知らせ”を見逃さずにいたいですね。
株式会社ユー・エス・エスは、
季節を感じるデザインや、心に残る写真・文章を通して、
“伝わる表現”をお手伝いしています。
香りのように、やさしく届く表現を。
この秋も、そんなお仕事をしていきたいと思います。