こんにちは。
東京文京区 護国寺 の 文字校正が得意なデザイン会社、株式会社ユー・エス・エスです。
社内報や広報誌を手がける私たちは、日々「伝わる文章」を追求しています。見た目にも読みやすく、気持ちがきちんと伝わる表現――その鍵のひとつが、「表記のゆれ」にどう対応するかです。
たとえば、ビジネスメールでよく見る「~してください」と「~して下さい」。どちらも見慣れた表現ですが、実はこの2つ、微妙に印象が違うと感じたことはありませんか? 一見、漢字の「下さい」のほうが丁寧に見えるかもしれませんが、実はこれ、誤解されがちな表記のひとつです。
今回は、現代語研究の知見をもとに、企業の社内報や広報誌において、なぜ表記の統一が重要なのか、どのようにルールを設けていくべきかを考えていきます。
表記のゆれとは、「きのう/昨日」や「ほしい/欲しい」など、同じ意味を持ちながら異なる書き方が存在することを指します。これは「表記の不完全さ」に起因しており、書き手の判断や文脈によっても変化します。
ではなぜ、このゆれが問題になるのでしょうか?
ひとつには、読者に違和感を与える恐れがあるからです。文章中で「下さい」と「ください」が混在していれば、「あれ?」と感じる読者が出てくるかもしれません。こうした違和感は、文章の内容に集中しにくくするばかりか、企業全体のブランドイメージにも影響を及ぼす可能性があります。
たとえば「ください」の場合、補助動詞として使われるとき(「資料をお読みください」など)は、ひらがなで書くのが基本とされています。
これは、意味の強い部分に漢字を使い、意味の弱い部分にひらがなを使うという日本語における漢字とひらがなの使い分けの基本原則に基づいています。
文章を文節で区切って見ると、多くの語句は「自立語+付属語(助詞や助動詞)」という構成になっています。自立語は名詞・動詞・形容詞など、意味の中心をなす語で、そこに意味を補足する助詞や助動詞が続く構造です。このとき、意味の核をなす自立語には漢字を使い、意味の補助的な役割を担う語にはひらがなを用いるのが自然で読みやすい形とされます。
「ください」は、「読む」「送る」などの動詞に付く補助的な動詞であり、意味の主役ではないため、ひらがなで表記するのが適切です。
例:
一方で「お金を下さい」のように、「ください」そのものが意味の中心となる(=本動詞である)場合には、漢字で「下さい」と書かれることもあります。ただし、現在ではこのような用法でもひらがなが選ばれることが増えています。理由のひとつは、「ください」が非常によく使われる語であるため、視認性や可読性の観点からひらがなの方がなじみやすいとされているからです。
また、ビジネス文書においては、「下さい」と漢字で書くと命令的に見えるため避けられる傾向があり、「お送りください」「ご確認ください」などの補助的で丁寧な表現が主流です。
このように「ください」の表記には、「意味の主従関係」と「読み手への印象」の両方を考慮する必要があります。言葉が持つ微妙なニュアンスは、ビジネスの場では特に重要だからこそ、表記のひとつひとつに気を配ることが求められます。
企業の広報や社内報では、複数のライターや編集者が関与することも少なくありません。そうなると、自然に表記のゆれが生まれやすくなります。
さらに、読者は社内の従業員だけでなく、取引先や顧客など外部の関係者も含まれます。こうした不特定多数に向けた文章では、「読みやすさ」「印象の一貫性」が非常に重要になります。
たとえば、読みやすさの観点から、以下のような判断が求められます。
これらは単なる「好み」の問題ではありません。文章表現の受け手である「読み手」がどう感じるかを考慮した選択なのです。
私たちは、クライアント様に企業ごとの「表記ガイドライン」を整備することをおすすめしています。ガイドラインは一度作れば永続的に使えるというものではありませんが、少なくとも次のような基本方針を盛り込むことが有効です。
こうしたルールがあれば、社内報・広報誌の制作もスムーズになり、読み手の印象も統一感が保たれます。
結局のところ、表記は「誰に伝えるか」「何を伝えるか」によって最適解が変わります。書き手の癖や好みだけでなく、「読み手にとってどうか」を主軸に考える必要があります。
たとえば、社員向けのメッセージならやわらかい印象を重視してひらがなを多めに使い、報道向けの広報資料であれば正確性を重視して漢字を中心に構成するなど、目的に応じた調整が大切です。
社内報や広報誌は、企業の「声」を形にするものです。だからこそ、伝え方への配慮は細部に宿るべきです。表記の統一ルールづくりは、そうした配慮を可視化し、実践へと導くための大切な第一歩だと私たちは考えています。
当社は、こうした表記の整合性を重視しながらも、企業ごとの方針や文化を反映した表現の多様性を尊重しています。言葉づかいには企業の姿勢や空気感が宿ります。現代語の知見を基本としながら、企業ごとの「らしさ」を活かす社内報・広報誌づくりをご一緒したいと考えています。
表記や言葉選びに不安を感じたときこそ、ぜひご相談ください。私たちは「読まれる」「伝わる」社内広報づくりのために、細部まで丁寧に向き合います。
※参考記事:
「メールで『~してください』を『~して下さい』と漢字で書く人が知らない事実 間違えると恥ずかしい『ビジネス文章の超基本』をおさらい!」(日本漢字能力検定協会 現代語研究室長・佐竹秀雄 氏)https://diamond.jp/articles/-/366320