「デューディリジェンス(Due Diligence)」は、もともと「適切な注意義務」や「事前の調査」という意味を持つ言葉です。
M&A(企業買収)の場面では、買収する企業の財務状況やリスクを事前にチェックするプロセスのことを指しますが、
「人権デューディリジェンス」は、それとは目的も内容も異なります。
人権DDは、「一度きりの調査」ではなく、“継続的にリスクを見直す仕組み”として考えられています。
具体的には、以下のようなサイクルで進めるのが基本です。
このサイクルを繰り返しながら、“人権尊重が当たり前の状態”を目指していくのが、人権DDの役割です。
人権DDが求められる場面はさまざまですが、代表的な例を紹介します。
シーン | 想定される人権リスク | 企業のアクション例 |
---|---|---|
海外の委託工場 | 長時間労働・低賃金 | 監査・ヒアリング・契約見直し |
国内の派遣先 | ハラスメント・差別 | 通報窓口の整備・研修の実施 |
自社内 | 職場環境・育児介護との両立不足 | 制度改定・柔軟な勤務体制の導入 |
災害時の対応 | 要配慮者への支援不足 | 備蓄品の見直し・訓練の実施 |
重要なのは、「想像力を持って、“影響を受ける人”の立場で考える」ことです。
「すべてをチェックするのは大変」「データも揃っていない」
そんな声も少なくありません。でも、完璧である必要はないのです。
むしろ──
こうした透明性のある姿勢が、企業への信頼や安心につながります。
海外では、企業が人権への取り組みを公表することが“当たり前”になりつつあります。
日本企業にも「進捗を開示する文化」が、今後求められていくでしょう。
人権というと、大きな問題のように思えますが、
実は日常の働き方や制度、取引の仕方など身近な選択の中に人権リスクが潜んでいます。
人権デューディリジェンスは、そうした視点を日常業務に根づかせるための仕組みです。
次回の最終回では、「ビジネスと人権の経営的な意味」──
なぜ人権への取り組みが企業のリスク管理や成長戦略につながるのかをお届けします。